(須野 2009) 酸性食品と齲歯
世は、健康ブームである。「〇〇が体に良い」などとテレビの番組で話題になれば、次の日にはその製品は街中の店から姿を消してしまう。最近良く話題になっている「黒酢」もそのひとつだ。一方で、黒酢が原因と思われる酸蝕歯(酸による齲歯)が最近増加しつつある。その結果かどうかはよくわからないものの、若年者の齲歯は減少し、中高齢者の齲歯が増加傾向にあるという。
この論文は、食酢、オレンジジュース、コーラ、ヨーグルトによる歯への影響を in vitro で調査したもの。各食品が1日3分歯に接触していると仮定し、1ヶ月、3ヶ月経過後の歯の状態を実体顕微鏡、電子顕微鏡で観察している。結果としては、どの食品も歯の表面が脱灰し、ブラッシングにより表層が削り取られることが確認された。
酢の何が体にいいのか私にはさっぱりわからないが、少なくとも歯には良くないことははっきりとわかった。
酸性食品によるエナメル質表面の構造変化とブラッシングの影響について
東京歯科大学卒業研究論文集 26-Nov-2009
須野 亜由美要約
近年、5 歳以上 25 歳未満の各年齢階級ではう蝕を持つ者の割合が減少する傾向を示したが、40歳以上では、増加する傾向を示し、その原因として健康管理を意識した酸の摂取による酸蝕歯が考えられている。これは、歯の健康を考えるうえで、大きな問題となっている。そこで、全ての酸が歯に同じような影響を与えるのか、また、酸によりやわらかくなっている歯にブラッシングを行った場合、歯面に対してどの程度影響があるのかを比較、検討することを目的とし実験を行った。
ヒト抜去歯スライスを用いて鏡面研磨歯牙組織片を作製し、酸蝕の原因となりうる食品に浸漬し、市販の歯磨剤を使用してブラッシングを 1 ヶ月および 3 ヶ月相当の時間実施した後、実体顕微鏡による表面の反射像および走査電子顕微鏡像の観察を行った。
本研究では、実験に用いたすべての食品において、表面の脱灰がみられた。種類により、脱灰の程度に違いが見られたものの、直後のブラッシングにより、すべての例において、脱灰部表層が削去され、表面がより平坦になっているのが観察された。このことから、酸性食品摂取直後の歯磨 剤を用いたブラッシングは、歯牙に対し、悪影響を及ぼしている可能性が示唆された。歯面が再石灰化されるまで、ブラッシングを中止することは出来ないことから、食品の酸蝕に対する対策を充分に検討する必要がある。