第97回日本消化器病学会総会@京王プラザホテル(新宿)

震災の影響で多くの学会が中止・延期を余儀なくされている中、開催を英断されたことに拍手を贈りたい。もちろん中止を決めた学会の関係者も、断腸の思いだったに違いない。その先生方の判断をけなすつもりなど、わたしには毛頭ない。しかし総会を今日開催されたということは、おそらく3月中のあの混乱の中で開催の決断をしなければならなかったはずだ。その勇気と決断力に、私は拍手を贈りたい。

大腸がんのスクリーニング

大腸がんの疫学
  • 男女とも有病率は増加傾向
  • 女性ではがん死因の1位、男性では3位
  • 2015年にはがん罹患率の1位となる予想
スクリーニングはどうあるべきか

スクリーニングと一口にいっても、一般人口を対象とするがん検診と、有症状者を対象とする臨床でのスクリーニングでは、考え方がまったく違う。

定期検診 臨床
対象 健常者 有症状者
有病率 低い 高い
頻度 繰返し行う 有症状・ハイリスク時のみ
求められる条件 低侵襲、低コスト、簡便さ、特異度 > 感度 感度 >> 特異度

この「頻度」というのが、実は大きな意味を持っている。一回あたりの感度がそれほど高くなくても、毎年繰り返しやっていれば累積の感度は高くなっていくのだ。これらの前提を抜きにして、スクリーニング論は語れない。

免疫学的便潜血検査, IFOBT
  • 簡便、安全、安価
  • 感度がやや低い (特に早期大腸がん、平坦型、陥凹型)
  • 死亡リスク減少に関するエビデンスがある
    • (Mandel, et al. 1999), (Scholefield et al. 2002), (Jorgensen, Kronborg & Fenger 2002)
  • がん対策基本法では受診率50%を目指しているが、現在は20%程度
    • 一方で陽性者に対する精密検査としてのTCSの処理能力は、すでに限界に近い
大腸内視鏡, Total Colonoscopy, TCS
  • 煩雑、侵襲が大きい (数万回に1回の消化管穿孔)
  • 感度・特異度が高い
  • 術者によるレベル差が大きい
  • 限られたマンパワー
  • 死亡リスクに関するエビデンス無し
S状結腸鏡, SCS
  • TCSより簡便(3分でできる!)、低侵襲
  • 死亡リスク減少に関するエビデンスがある
    • (Selby, et al. 1992), (Newcomb, et al. 1992), (Muller, et al 1995), (Kavanagh, et al. 1998)
  • 日本では普及の目処なし
    • 日本のTCS技術が高いため
CTコロノグラフィ, CT Colonography, CTC
  • CSより簡便で低侵襲
  • 10mm 以上の病変での感度は CS に劣らない
  • 死亡リスクに関するエビデンスはない
注腸
  • TCSの普及に伴い、施行されなくなっている
  • TCS処理能力限界により、再び日の目をみるか?
PET
  • 高コスト
  • 見逃しもかなりある(特に粘膜内がん(Mがん))
Fecal RNA Test
  • 糞便中のmRNA発現を検出
  • 簡便、安全、高価 (IFOBTの10倍)
  • IFOBTよりも感度が高く、早期診断能力に優れている
  • 死亡率に関するエビデンスはない
血清脂肪酸プロファイリング
  • 大腸がん病変特有の代謝物を検出
  • 簡便、低侵襲
  • 一般の腫瘍マーカーと異なり、発がん以前での検出が可能

ウイルス性肝炎

B型肝炎

このような学会に参加して毎回思うのだが、B型肝炎制圧のためにはポピュレーションレベルでのワクチン接種が必要不可欠なはずなのに、なぜその話題が出ないのか?

  • 治療薬
    • インターフェロン, IFN
    • 核酸アナログ製剤:耐性株出現をどうすべきか? 中止できるのか?
      • ラミブジン, Lamivudine, LAM
      • アデホビル, Adefovir, ADV
      • エンテカビル, Entecavir, ETV
      • テノホビル
  • 耐性株出現率
耐性株 治療法 期間 耐性株出現率
L+Ar LAM/ADV 47m 3.3%
L+Er ETV(Lr) 58m 46.2%
L+Er ETV 72m 7.7%
L+Er LAM/ADV 72m 1.6%
C型肝炎

制圧の可能性が見えてきたように思う。肝がん対策の次の戦場は、じつはNASHなのかもしれない。

  • SVR率の変遷
治療法 SVR NVR率
IFN 23%
IFN/RBV48週 27-54% 24%
PEG-IFN/RBV 38%
PEG-IFN/RBV/TVR 64-100%